大動脈瘤・大動脈解離・大動脈破裂
大動脈は、心臓から送り出された血液が最初に通る、人体の中で最も太い血管です。
大動脈瘤は、この大動脈が「こぶ」のように病的にふくらんだ状態になっている病気です。この「こぶ」ができた場所によって呼び名が異なり、胸部に動脈瘤がある場合を胸部大動脈瘤、腹部に大動脈瘤がある場合を腹部大動脈瘤といいます。胸部から腹部にかけて連続して大動脈瘤がある場合は胸腹部大動脈瘤といいます。
胸部大動脈瘤3D造影CTの一例
腹部大動脈瘤3D造影CTの一例
大動脈解離は、内膜、中膜、外膜の3層に分かれている大動脈の中膜がなんらかの原因で裂けて、もともとは大動脈の壁であった部分に血液が流れ込むことで大動脈内で血液が2方向に流れている状態のことです。また、裂けている部位によって分類されています。
大動脈解離のイメージ図
大動脈解離の分類(DeBakey分類)
大動脈解離の分類(Stanford分類)
大動脈解離StanfordA型の造影CTの一例
大動脈破裂は、大動脈瘤が大きくなり風船が弾けるように大血管が破裂してしまうケースや交通事故などの外傷で、外部から大きな力が加わったときに大動脈が裂けたりして、血管の外に血液が出てしまう状態のことです。破裂した場合、出血管外に血液が放出されると血管の中の血液がなくなり、低血圧ショック状態となります。命を落とすことも多い病気です。
腹部大動脈瘤破裂のCTの一例
症状
大動脈瘤は自覚症状がないまま大きくなる場合がほとんどです。
胸部大動脈瘤が大きくなると、胸の大動脈の周囲が圧迫されて症状が現れる場合が頻度は少ないですがあります。声を出すための声帯の神経(反回神経)が圧迫されると「しわがれ声」になったり、食べものをうまく飲み込めず「むせてしまう(誤嚥)」などです。破裂が差し迫った場合は、胸、腰や背中の痛み、血痰や息苦しさ、食物が飲み込みにくい、といった症状が急に現れることもあります。
腹部大動脈瘤は、やせている方ではお腹に「こぶ」が目立つようになったり、お腹を触ったときに「こぶ」の中を流れる血流の拍動を感じることがあります。破裂が差し迫った場合は、持続する腹痛や腰痛が急に起こることがあります。
大動脈解離、大動脈破裂は、ほとんどの場合、何の前触れもなく、突然、胸、腰や背中の激痛といった症状が出ます。
小さなサインを見逃さず、気づいたときに受診することで破裂を未然に防ぐことができます。これはもしかしたらと思われたら受診されることをおすすめしています。
胸痛
腰痛・背部痛
むせる(誤嚥)
主な検査
造影CT検査
造影CTでは、大動脈の状態を知ることができます。大動脈瘤の大きさ、大動脈解離で裂けている所、大動脈破裂で破れている所、大動脈内の血管の性状(プラークの有無など)や石灰化などがわかります。腕の静脈から造影剤を静脈注射してCT撮影する検査です。CTの撮影情報を画像解析ソフトで3D化することで、3次元での診断も可能です。
心臓超音波検査
心臓超音波検査(エコー)では、様々な方向から心臓と心臓周辺の大血管を観察して、心臓の構造と機能を診断する検査です。超音波(周波数の高い音)の照射と検出の両方を行うプローブから超音波が照射され、体内の臓器等に当たって跳ね返ってきた反射波を利用して動画を生成します。
MRI検査
MRI検査では、大動脈の状態を知ることができます。大動脈瘤の大きさ、大動脈内の血管の性状(プラークの有無など)や石灰化などがわかります。大動脈を観察する方法としては、造影CT検査が第1の選択肢になりますが、腎機能の悪い方、造影剤アレルギーのある方など、造影剤を使用することが困難な方にMRI検査で対応しています。
心電図
心電図では、拍動を誘発する心臓の生体ペースメーカー部、心臓の神経伝導経路の状態や、心拍数や心拍リズムを知ることができます。冠動脈が閉塞していることも示唆されます。
腕、脚、胸に小さな円いセンサーを付け、センサーで1拍毎の心臓内での電流の大きさと方向を測定します。
血管超音波検査
血管超音波検査(エコー)では、様々な方向から大動脈を観察します。血管の位置、形状、瘤の形態や位置、大きさなどを評価します。 大動脈の構造と機能を診断する検査です。超音波(周波数の高い音)の照射と検出の両方を行うプローブから超音波が照射され、体内の臓器等に当たって跳ね返ってきた反射波を利用して動画を生成します。
胸部・腹部レントゲン検査
レントゲン検査では、X線で体内の様子を撮影して、心臓の大きさや形を判断します。X線は骨や水分、脂肪などの体の組織によって通りやすさが異なることを利用しています。X線を一方向から体にあてると、体を通過したX線の差が濃淡の影としてモノクロ画像として見ることができます。
治療
治療には大きく分けて「薬物治療」、「カテーテル治療」、「人工血管置換術」があります。大動脈瘤では瘤を破裂させないようにすること、大動脈解離では解離でできた血管腔に血流がいかないようにすること、大動脈破裂では破裂箇所からの出血を止めることが必要です。大動脈解離、大動脈破裂は前触れなく急に起こる病気ですが、特に上行大動脈に解離があるA型と大動脈破裂は緊急手術が必要になります。
当院ではカテーテル治療のステントグラフトと開胸・開腹をして直接人工血管と置き換える人工血管置換術を行っています。どの治療法が最適かは、症状や全身状態にもよりますので、症例ごとに適用を検討しご提案しています。
大血管疾患のカテーテル治療
ステントグラフト
人工血管置換術
大動脈瘤、大動脈解離、大動脈破裂に対する、ステントグラフトによる治療が難しい場合、解離や破裂している血管を人工血管と置き換える手術を行います。人工血管は合成繊維のポリエステルで作られていて、現在の人工血管の耐久性は数十年以上あるため、基本的に入れ替えの必要はありません。しかし、菌による感染に対して弱いため、注意が必要です。人工血管が感染した場合、治療は非常に困難で、人工血管を入れ替える手術が必要になる場合があります。特に歯科治療の際には、人工血管が体内にあることを歯科医に告げてください。
オープンステントグラフトを用いた、上行・弓部大動脈置換術、三分枝再建の術後3D造影CTの一例
上行大動脈置換術の術後3D造影CTの一例
腹部大動脈置換術の術後3D造影CTの一例
大動脈基部置換術(Bentall手術)
大動脈解離が心臓に近いバルサルバ洞まで進展していて外膜損傷を伴ったときや、バルサルバ洞動脈瘤破裂の際には、大動脈基部置換術をおこないます。これは、大動脈弁を人工弁と置換し、バルサルバ洞、上行大動脈を人工血管と置換、冠動脈の左右入口部の再建という手術です。大動脈解離の中でも最も重症な症例に対する手術です。
大動脈基部置換術の術後3D造影CTの一例
ホモグラフトを用いた手術
-トピックス-
人工血管を用いた大動脈弓部置換術の術後に、感染性大動脈瘤となった患者さんが転院されてきました。感染症がある状態で新たな人工血管と置き換えても、再度感染する可能性が高いため実施することができません。そこで、凍結保存されたヒト組織であるホモグラフトを用いて大動脈弓部置換術をおこないました。血管外科、心臓血管外科、外科による共同手術で、多くの専門家がこの治療に関わっています。治療過程や症状、手術体制など、ホモグラフトの適用には基準が設けられており、今回は、西日本組織移植ネットワークからホモグラフトのシッピング(提供)を受けました。
ホモグラフトを用いた大動脈弓部置換術の様子